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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。
その四十七(2004年5月1日)

 このコーナーでもすっかりおなじみになった「のれんギャラリー」。5回目になる今回は、新作を中心にお宅をのぞいてみました。作品としての美しさはもちろん、のれんを見ればその家がわかるというほど、その意匠にはそれなりの意味があるのです。 勝山の暮らしのスタイル、ひいては、住まい手の豊かさを知る格好のてがかり「のれん」を今月もとくとご覧あれ。

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【行藤(ゆきとう)邸】
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●多彩な色づかいがひときわあでやか

 白壁になまこ壁…。蔵を思わせるどっしりとした構え。一般のお宅にしては、確かに少し存在感がありすぎる。
お店屋さんかなにかと間違われませんかとたずねると、
「ああ、それはしょっちゅう」と笑って答えてくださったのは、奥さんの昌代さん。道行く人も興味津々なのか、「(営業)やってます?」とのぞきこんでくるそうだ。

 設計から一年がかりで建てた自慢の家は地元勝山産の檜と松をふんだんに使った贅沢な造り。建てた時より何十年先に味わいが増す、そんな日本建築ならではの良さを随所に取り入れた。むろん、町並みとのバランスも考えてのこと。
 県指定の保存地区ということもあり、景観に配慮した建物には、町からわずかばかりの補助金もでるらしい。けれど、そんなことよりも「この町に住む以上、住む側の自覚の方が大切」と、ご主人の修久さんは言う。「なんでも好きに建てりやあええというもんではないと思う」。

 2ヶ月ほど前に新調したのれんは、黒地に咲くあでやかな花火の図柄。夏の夜、浴衣にしてまといたいような可愛らしくも大胆な色づかいだ。
 作家である加納さんには「きれいな色を入れて」とだけ添えてあとはおまかせ。黒の地は町内では珍しいが、行藤さんのお宅の白壁にはそれが実によく映える。まさに、互いをよく知ればこそのカスタムメイドだ。
「みなさんいいわねえと言ってくださるんですよ」と昌代さんの顔も自然にほころぶ。

 もともと勝山に生まれ育った修久さんだが、7年前、隣町の落合町から生まれ故郷の勝山に戻り、今は同じ町内に住むお兄さんと家業に勤しむ毎日。
 ひな祭りには、ご主人がみずから前庭のアプローチに風流なろうそくを並べ、外見からは想像できない(!)繊細な演出を披露する。
「観光客しか歩いとらんような町はいやじゃなあ。生活感がなかったらおえん思う。子どもがランドセル背負うて走りまわっとるような町でなけりゃ」。
住まい手が主役だからこそ、町は生きる。一軒、一軒のれんを訪ねて歩けば歩くほど、暮らしの確かな手応えが伝わってくる。

▲花火の図柄ののれん。さまざまにまざりあった複雑な色味 ▲行藤さんご夫妻 ▲立派な構えの行藤邸


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【大澤(おおさわ)邸】
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●初夏の日射しに映える青竹ののれん

 どんな人が住んでいるのか、町の人と話がしたいと思っても、お店屋さんならともかく、一般のお宅に「こんにちは」と訪ねていくのは、人様の生活に踏み込むようで気が引ける。
 そんな時、きっかけづくりに一役かってくれるのが玄関先にかかる「のれん」。
「ステキですね」の一言で、互いの「垣根」が取り払われ、そこから見知らぬ者同士の会話が弾む。見て歩くだけの観光も、ほんの少し人とふれ合うだけで、心に残る思い出となるはずだ。

「ちょうど今巣作りの季節でしょ、のれんを出せないの」。申し訳なさそうに理由を話してくださったのは、この家の奥さんの京子さん。
 見上げると確かに軒下につばめの巣がふたつ。毎年何千キロの彼方から海を越えて帰ってくるつばめ達のことを考えると、無下に取り払うことなどできないし、かといってこの真下にのれんをかけると、糞でせっかくの麻布が台無しに。というわけで、自慢ののれんを、つばめの子育てが終わるまではと、入り口の奥に避難させているそうだ。

 でもせっかくなので、とさっそく表に出して見せてくださった。
まっすぐに伸びた青竹が3本。竹の輪郭と節はよく見ると絞りでできている。こっちの背筋までしゃきっと伸びそうなほどに潔く清々しい印象ののれんだ。色あいも実にいい。
「私が深いグリーンがとても好きなんですよ。だからほんとにこののれんが気に入っ
てるんです」。
 玄関脇のコーナーに目をやると、青竹をアクセントにして、山野草や季節の花々がさりげなく生け込んである。きっとそれを見て、加納さんはこの家のシンボルを竹に決めたのだろう。互いの生活や好みをほんとに熟知しているからこその計らいだ。

 初夏の日射しの中で、写真を撮らせていただいていると、通りがかりの人も誘われて足を止めていく。「いいですねえ」。誰からともなくそんな言葉が飛び交った。


のれんの向こうがわ4月号で話題になった
「勝山しょうゆ蔵」
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 http://www.homepage.mac.com
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▲大澤邸ののれん。麻のしゃり感とグリーンの色あいが実にさわやか

2004年5月1日


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