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【大澤(おおさわ)邸】
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●初夏の日射しに映える青竹ののれん
どんな人が住んでいるのか、町の人と話がしたいと思っても、お店屋さんならともかく、一般のお宅に「こんにちは」と訪ねていくのは、人様の生活に踏み込むようで気が引ける。
そんな時、きっかけづくりに一役かってくれるのが玄関先にかかる「のれん」。
「ステキですね」の一言で、互いの「垣根」が取り払われ、そこから見知らぬ者同士の会話が弾む。見て歩くだけの観光も、ほんの少し人とふれ合うだけで、心に残る思い出となるはずだ。
「ちょうど今巣作りの季節でしょ、のれんを出せないの」。申し訳なさそうに理由を話してくださったのは、この家の奥さんの京子さん。
見上げると確かに軒下につばめの巣がふたつ。毎年何千キロの彼方から海を越えて帰ってくるつばめ達のことを考えると、無下に取り払うことなどできないし、かといってこの真下にのれんをかけると、糞でせっかくの麻布が台無しに。というわけで、自慢ののれんを、つばめの子育てが終わるまではと、入り口の奥に避難させているそうだ。
でもせっかくなので、とさっそく表に出して見せてくださった。
まっすぐに伸びた青竹が3本。竹の輪郭と節はよく見ると絞りでできている。こっちの背筋までしゃきっと伸びそうなほどに潔く清々しい印象ののれんだ。色あいも実にいい。
「私が深いグリーンがとても好きなんですよ。だからほんとにこののれんが気に入っ
てるんです」。
玄関脇のコーナーに目をやると、青竹をアクセントにして、山野草や季節の花々がさりげなく生け込んである。きっとそれを見て、加納さんはこの家のシンボルを竹に決めたのだろう。互いの生活や好みをほんとに熟知しているからこその計らいだ。
初夏の日射しの中で、写真を撮らせていただいていると、通りがかりの人も誘われて足を止めていく。「いいですねえ」。誰からともなくそんな言葉が飛び交った。
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