毎年3万人以上の人出で賑わう 恒例のお雛まつりが終ると、保存地区の町並みも、ほっと一息ついたような日常の静けさを取戻す。
ここに来ると、さっきまで時速100キロで高速をぶっとばしてきたのがうそのように、平成から江戸の時代にタイムスリップしたような不思議な懐かしさを覚える。寸と尺で造られた町家のたたずまい、瓦の銀黒に漆喰の白、そして格子戸の茶色…。
そういえばある作家が、江戸の町は雀の羽色をしているとなにかの本に書いていた。保存地区の町並みもそれに似たシックな無地色。「保護色」は人の心を落ち着かせてくれるそうだ。
だからなのか、各家々の軒先を飾る「のれん」の色彩のコントラストは一つひとつどれもが鮮烈だ。この季節、川原に咲き乱れる菜の花の黄色も、この町で見ると妙に感覚の奥深くに染み込むのである。
勝山を訪れる観光客の数はここ数年うなぎ上りで、県の町並み保存地区に指定された昭和60年当時から比べると現在は約7倍、年間15万人を数える。
古いだけの町は、一見退屈そうにもみえるものだが、この地区を歩いていると、それぞれに住まいへの愛着と確かな暮らしのリズムが感じられ、それがとても愉しい。
「のれんの向こうがわ」に見え隠れするそんな豊かな空気が、町全体をぬくもりのあるものにしている理由だろう。景観の美しさだけでない、懐かしさと軽快さが混ざりあった生活や営みの匂いそのもの、それが町の面白さでもある。 |