平成8年に、16軒からスタートした勝山のれんの町づくり事業。各家ののれんも古いものから新しいものへと代替わりし、
そのつど、町に新しい風を吹き込んでいます。今月は、のれんを新調した2軒のお宅を訪ねてみました。
どんな方が迎えてくれるかな?のれんの向こうがわの、住まい手の素顔をのぞいてみました 取材・文/三村佳代子
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古い生活用具と木のぬくもりに誘われて
●遠藤工務店
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保存地区の上手(かみて)にある遠藤工務店は、シックなたたずまいの一級建築士
事務所。木工所を営んでいた先代の跡を継いで、二代目にあたるご主人が事業を
営む。木材の町・勝山だけあって、県産材の良さを生かした本物自然志向の住宅や
リフォームを手がけている。事務所の中も、木や和紙(壁材)を使ったあたたかみのある
内装。昔ながらの町家が並ぶ保存地区だけに、白壁や格子の修繕依頼も多いという。 |
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家業を大胆にデフォルメ
黒を生かしたモダンなのれん
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4枚目になる新作ののれんは、奥さんの富士子さんが自らデザインを手がけた自信作。
丸と逆三角と、平行四辺形?なんの意匠だろうと、はたと悩む。
聞けば、ご主人が、設計台の前で図面をひいてるところだという。
「今度作るなら、家の職業がわかるのれんがいいかなと思って」と奥さんの富士子さん。
不思議なもので、一度教えてもらうと、もうそうとしか見えなくなる。勝山の町に揺れる
のれんは、小細工なしの、そのものずばりの図案が多い。
色合いも、設計事務所らしくおちついた雰囲気。外壁がベージュなので、ぼやけてしま
わないよう、配色に黒を用いて、ぴりっとモダンに仕上げた。
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のれんの町並みもスタートして10年にもなると、各家々も3枚目4枚目と仕立てる数が
増えていく。破れてボロボロになっても、どれも愛着が染みこんだものばかり。
のれんにその家の歴史が刻まれるとあって、たとえ寿命がつきても、仕舞い込むには
しのびないらしい。こちらの事務所の奥にも、ひとつ前の色褪せたのれんが、大切にかけら
れていた。
「やっぱり、自分とこののれんがみんな一番好きなんよ。対抗意識とかそんなんなんにもない。
よそのお宅に新作ののれんがかかったら、どれどれ見せて〜っ、見て見て〜って、互いに
ほめ合う感じかな(笑)」。
珈琲を用意してくださっている間、事務所の一角にある不思議なものが気になった。
大小さまざまな鉄製の分銅。江戸時代のものもあり相当古い。数にすると70個ほどは
あるだろうか。さらに衝立てには、古い天秤棒が大中小と入り交じって40本ほどぶら下がって
いる。
ご主人のコレクションですか?とたずねると、なんとびっくり。次から次へと自然に集まってきた
ものだという。
最初、たまたま家にあった2〜3本の古い天秤棒を衝立てにかけておいたところ、近所の人が
「うちの蔵にもおんなじようなもんがあった」と持ち込むようになり、そのうち、人が来ては勝手に
かけて帰っていくようになったのだという。モノの世界も、人と同じく「類は友を呼ぶ」のである。
蔵の隅っこでほこりを被っていた分銅や天秤棒たちもこうして一堂に会し、さぞにぎやかに喜んで
いることだろう。
さらに、筵やござをなう道具や、昭和のきざみタバコなど、貴重ともいえる時代の生活小道具
をいろいろと見せていただいた。
「勝山は、のれんの向こうがわがおもしろかろ?」と富士子さん。その言葉どおり、各家々、
それぞれに独特の個性を発揮している。
3月のお雛まつりには、ご主人が作る竹で作った三角形のお雛さまが並ぶ。
素材を生かした素朴なあたたかさ。富士子さんの携帯にも、ご主人お手製のよつ葉の竹ストラッ
プがかわいらしく揺れていた。
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古きよき昭和の面影が今も残る
●藤原モータース
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瓦葺きの屋根に堂々と掲げられた「藤原モータース」の看板。保存地区を歩いていると、
そのレトロなたたずまいに思わず足を止めたくなる。
古い町家が並ぶ保存地区の中でも、とりわけ山本町界隈は歴史を感じさせる商家が目をひく。
藤原モータースは、嘉永元年に建てられたという、もと大店。炭や木材を扱う卸問屋だったという。
50年前に久世出身のご主人が家を買い取り、自動車整備工場を開業。息子の武文さんと
一緒に、車の修理や車検整備を行っている。
修理中の車に混じって、作業場の片隅には、モータリゼーションの時代を彷佛させる、昭和47年の
スバルR-2やホンダのN360といったクラシックカーも。いずれも整備すればちゃんと走るというから心強い。
懐かしい車種だけに、時々カーマニアが写真を撮らせてほしいと、中をのぞきにくることもあるそうだ。
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武文さんは正真正銘の祭男。
けんかだんじりでは、2年続けて総代を務めた。 |
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2枚目になるのれんは、赤一色に描かれたホルクスワーゲンの図柄。誰がみても車屋さんだと
ひと目でわかる。「クラシックな車が好きなので」と息子の武文さんが決めたそう。
ここ数年で勝山保存地区の町並みはたびたびマスコミでとりあげられるようになり、藤原モーターズにも、
全国放送のTVカメラが入ったことも。店の前を通る観光客の数も以前よりもずいぶん増えた。
「勝山の人はようものを言う」といわれるとご主人の静馬さん。確かに、話を聞かせてほしいというと、
厭うことなく中へ案内してくれるし、一度きっかけができれば、誰もがオープンに接してくれる。
11月中旬の勝山は、もうすっかり冬の気配。珈琲に大福餅をすすめられ、とつとつと質問に応えてくれる
ご主人のあたたかな人柄とストーブのあたたかさが、なんだか胸にしみるようだった。
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2008年12月1日
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