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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。
その五十四(2004年12月1日)


いよいよ師走に突入し、本格的な冬の寒さを迎えた勝山。今月は久しぶりに、保存地区の「のれん」を訪ねてみました。この町を訪れる人をなにより惹きつけているのは、主役である住まい手たちの生き生きした暮らしぶり。一見シャイだけど実はこだわりと誇りをいっぱいに秘めた勝山人。「のれん」の向こうをのぞいてはじめてわかる、そんな素顔の魅力をお届けします。

▲水口家には真っ白な猫が2匹。猫グッズもついつい集めてしまうそう
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水口邸

あたたかみのある春色ののれん
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 ひと足先にそこだけぽっと春が訪れたような八重梅ののれん。「前回は薄い紫で夏のイメージだったから、今回はお雛まつりを意識してあったかい色がいいかなと思って」と純子さん。 掛ける側も、ひとつこしらえると、春、夏、秋、冬、と四季それぞれに違うものがほしくなるという。

 ピンクというより茜を薄くしたような自然の色あいは、意外にも化学染料。一日中かけておくのれんだから、色もちする化学染料をリクエストするお宅も最近は多い。草木染めだとどうしても色褪せが早くなるのだそうだ。
「やっぱりすごく大事にしたいから、昼間だけかけとこうかとか、雪がちらついている日や雨風が強い日はしまっておこうかなんて思ってしまう。だけどそれでは意味がないでしょ。のれんを見にわざわざ勝山までいらっしゃる方にも申し訳ないし、よんちゃんの技もお見せしたいしね」。
 よんちゃんこと、作者の加納さんとはもともとおさななじみの間柄。製作中も何度か呼ばれ、色を確認しあったという。そのせいか、出来上がった作品は、優しげな純子さんのイメージそのもの。住まい手とのれんは必ずどこか雰囲気が重なる。

 もともと花が大好きで、前回は「時計草」の図柄をリクエスト。この花自体を知っている人が少ないせいか、テッセンと思い違いをされることもあったそうだ。そんなこともあってか、最近は観光客の反応にも少し敏感になった。「横が駐車場だから、観光客の方が歩いてこられる気配がなんとなくわかる。いいわねーなんて声が聞こえてくるとやっぱりうれしいですよ」。
 実家を離れて30年間岡山暮らし。8年前にご主人の実家のある勝山に戻ってきたものの、久しぶりの故郷に最初は戸惑うことも多かったそう。けれど、お年寄のボランティア活動に参加したり、愛育委員を委嘱されたりと、最近はすっかり地域活動にも忙しい日々。3月のお雛まつりには、玄関先にお目見えする手作りのお雛飾りとともに、こののれんが一層映えるに違いない。

▲息子の文彦さん(手前右)とご主人の守之さん ▲中庭のもみじは守之さんが苗から育てあげた。大きくなると山に植えて戻すという

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宮文

地元の人に愛される味を
利よりも義を重んじる商いの心意気
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 青竹のような清々しいグリーンに月を配したシンプルなのれん。透けるような麻の素材は、格子戸の向こうに広がる中庭の景色を遮断することのないようにとの配慮から。そんな質感を際だたせた粋な風情が、老舗料理屋のたたずまいにとてもよく似合う。
 店の創業は大正12年。現在のご主人、守之さんの祖父にあたる初代の宮田文市さんが、名前の二文字をとって「宮文」ののれんをあげた。
 ずいぶんと舌の確かな腕のいい料理人だったらしく、店の景気もすこぶるよかったそうだ。「子ども時分に、週に一回、木材の市がたつときは、250人分の弁当をリヤカーに乗せて配達しておりました。そりや、もうすごいにぎわいでしたよ」。
 もともと職人気質の厳しい人だったため、2代目はその意に添わず電気店を開業。代わりに嫁いできた守之さんのお母さんが、文市さんに就いてその味を必死に守った。
 その後、父親の電気店を守之さんが継ぎ、料理屋は女性たちが切り盛りする時代が続いたが、平成3年に店を現在の場所にニューアル。外観からは想像がつかないが、館内は50畳の座敷を二つも設ける贅沢なスケール。これなら観光客も一度に呼び込めるのではと思いきや、大切にしているのはむしろ「地元のお客さん」。店の価値はお客さんが決めるものと、派手な宣伝は一切しないという。
「宣伝せんといけんような店ならやめた方がいいというのが初代の口癖でした。“親苦、子が楽、孫終い”というけれど、うちはなんとかご贔屓いただいて4代続けさせてもらってる」とご主人。
 その言葉どおり、大阪の名料亭で修行を終えた息子の文彦さんが、2年前から本格的に厨房を仕切る。守之さんが絶品と評する煮物をはじめ、四季おりおりの食材を使った華のある和食が自慢だ。

 電気店の仕事にも区切りをつけ、今は舞台裏から「宮文」ののれんを支える。店の建て替えという一世一代の大仕事も、なんとか返済の終わりが見えてきた。「今度は息子のために器を用意してやりたい」。苦労を重ねてきたご主人だけに、聞いていてそんな親心がなんだか沁みる。
 店の表に立つことはないけれど、電気屋として何件もの「とぐい」(お得意さん)の面倒をみてきたその自信と心意気が消えることはない。お客様に愛され、人から信頼されてこその「のれん」。決して派手さはないけれど、「利よりも義。こつこつとねばり強くが信条」の商いは、親から子へと受け継がれていく。




2004年12
月1日


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