台風一過で、さわやかな夏空が広がる6月のとある日。白昼ののんびりした空気の中、いつものように保存地区を歩いてみる。
途中、永い間崩れ落ちたままになっていた石段の参道が、かつての面影を再現する形で蘇っていた。所有する寺の事情で戦後ふさがれてしまって以来、今日までそのままになっていた場所である。
この参道の途中に、来年交流体験工房として再生され、勝山の新たな地域ブランドの発信拠点となる古い「しょうゆ蔵」がある。明治時代に建てられた4棟からなる建物は、20年前に廃業され老朽がかなり進んでいるものの、城下町勝山を知るには充分な姿を留めている。朽ちてもなお美しい、懐かしい存在感がある。
「今の心境としては、ここまで長くかかったなという感じです」。勝山をこよなく愛し、町づくりのキーパーソンとして第一線で機動力を発揮してきた辻均一郎氏(御前酒蔵元「辻本店」社長)は、町並み再生の経緯をそんなふうに振り返る。建物の価値や保存状態をみる調査活動も終わり、この夏にも再生に向けた修復工事が始まる予定だ。
「しょうゆ蔵構想」が具体的に始動したのは、4年前の2000年8月。地元の民間企業人ら10名からなる「NPO21世紀の真庭塾」が、町の旧家が所有し現在使われていないこのしょうゆ蔵の再利用計画を町にもちかけた。辻氏はこの会の町並み部会長をつとめる。
「このしょうゆ蔵は子どもの頃からお気に入りの場所でした。高台にあるので眺望がいい。ここから勝山の町並みと旭川を一望に見渡せるよう建物2階には回廊を設けます。ここで酒を飲んだらそれこそうまいですよ」。
設計には、ギャラリーや工房などミュージアムとしての機能だけでなく、アーティストや利用客らが自由に参加し交流が楽しめるよう「食」のスペースも充実させた。本格的な厨房を備えたホールのデザインは、辻氏自身の思いがちりばめられている。
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