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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。
その四十一(2003年11月1日)
    
 全国に郷土料理は色々あれど、勝山を代表するものといえば、秋の味覚、鯖ずしである。とりわけ、毎年10月19日、20日に行われるけんかだんじりの祭り日にはこの鯖ずしが欠かせない。どこの家でも必ずふるまわれ、年に一度ハレの食卓を飾る。


 勝山は、海から遠く離れた山間の町。鮮魚に乏しかったため、町の人は今でも生魚のことを特別に「ブエン」(無塩)と呼んだりする。魚といえばもっぱら塩干類で、とりわけ塩鯖は、日常の食卓の中でも「ごっつおぅ」(ご馳走)であった。

 そんな風土から生まれた鯖ずしは、もともとは各家庭で作り継がれてきたもの。かつては鯖の腹にすし飯を詰め、一匹まるごとの姿寿司として食べられていたようだが、近年では、三枚におろし肩身だけを使ったスタイルが主流だ。寿司飯に具を入れたりと作り方は家によってさまざまで、「これぞわが家の味」とばかりに、おかみさんたちは腕をふるうのである。

 町内のお寿司屋さんも祭りが近づくと鯖ずし作りに追われる。保存地区の端に店を構える「田吾作」は、鯖ずしがうまいと評判の店。県外に離れて暮らす家族や知人に送るため、この店の鯖ずしを毎年注文する贔屓客も多いという。


勝山グルメマップにも登場する「田吾作」ののれん ▲勝山のまつりの味「鯖寿司」 田吾作のご主人山浦良章さん

酢の効用で
保存食としても

 実際に作りはじめるのは祭りの2日前だそうだが、特別にお願いして作る様子を見せてもらうことにした。とりかかってくださったのは、この店のご主人、山浦良章さん。

 まずは、3枚におろした塩鯖(2切れ)を水洗いし、一昼夜すし酢に漬ける。鯖ずしの飯は一割ほどもち米を混ぜ、通常の寿司飯よりもいくぶん強めに酢を効かせるのがコツ。その後、押型に鯖と寿司飯を詰め上から押さえて形をこしらえる。これだけの説明だと、へっ?というほど簡単そうだが、その分下処理には手間ひまがかかる。
「うちは、昔から竹の皮で包むでしょ。水で洗うとまくれてしまうから一枚一枚、ふきんでていねいに水拭きするんです。これがけっこう時間がかかるの」と奥さんの良枝さん。
 鯖の骨抜きも根気のいる作業。酢に漬けた後、骨を一本一本ていねいに抜き取るのだが、先代と同様にご主人も「このへんの仕事をけっしていい加減できない性質(たち)」。見えないところにも気を抜かないのが職人の心意気である。
 できた鯖ずしは、竹の皮にきれいに包み、あらかじめひも状に裂いた同じ竹皮で2ケ所をきゅきゅっと結わえる。これも実に手慣れたもの。あざやかな手つきはさすがに素人にはできない芸当である。
 最後に箱にきれいに並べ、上から押しを切れば(重しをかける)出来上がり。もち米を入れることで日持ちがし、10日間ぐらいは食べられるそうだ。

 完成品をお相伴にあずかった。すし飯と鯖の間にはさんだガリがアクセントになって、これが実にうまい。鯖の臭みもまったくなく、寿司飯との加減もまさに絶妙だ。ややどっしりめの純米酒を脇に置いて、酒の肴としてつまんでも、いくらでもいけそうである。

▲あざやかな職人の手さばき ▲これからが本番。夜のだんじりけんかへ繰り出す城若連

祭り命の
勝山っ子たち

鯖ずしを囲むと、やはり祭りの話しが聞きたくなる。

「盆、正月にも帰ってこん息子らが、なぜか祭りには必ず帰ってくる。けんかだんじりは、それだけ若いもんものぼせるなんかがあるんかなあ」とご主人。そうなのだ。勝山の子どもたちは皆、あのチャントコチャントコという独特の早いリズムを体に刻んで育つ。特に男の子たちは、祭りの日になると誰から言われるでもなく、だんじりが止まっている時にすかさず上がり、われ先にと鐘打ちの練習をするそうだ。勝山の小・中学校もこの日は半ドン。店も閉まる。それほどに熱が入るのだ。

「勝山の人間はね、みんな一年に一度はあの音を聞かんとだめなんよ。(帰ってこれない娘には)電話で受話器越しに、聞こえるか?言うて祭り囃子を聞かせたもんよ」と満代おばあちゃんも目を細める。

 実際、けんかだんじりの当日、町は祭り一色に染まる。まるで1年間蓄積したエネルギーをこの2日間にすべて注ぎ込むかのような男たちの気迫には、ただただ圧倒されるばかりだ。町が、人がひとつになるというのはこういうことかと、その独特の熱気を見せつけられるのである。

 今年はとりわけ天候にも恵まれ、ここ数年の中でも格別の盛り上がりを見せたようだ。祭りのあとには、いつものように鯖ずしが用意され、酒を酌み交わしながら大いにその勇姿をたたえあったに違いない。遠く離れていても、変わらないふるさとの味。まさに勝山ならではの暮らしの風土がここにある。


2003年11月1日


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