洋裁ひとすじ40年 【テーラーさとう】
ザッ、ザッ、ザッー。業務用ミシンのリズミカルな音に誘われて、思わずのれんをくぐる。ミシンを走らせていたのはこの店の主、佐藤時子さん。
「仕立て屋にはどんな色が似合うかなって思いながらおまかせで作ってもらったん」というのれんは、紺地に大きな円の絞り染め。上品でおおらかなイメージは、時子さんの雰囲気とどこか重なる。
夫婦で店を始めたのが昭和38年。その頃、背広はあつらえるのがあたり前だったそうだが、大量生産の波とともに今はほとんどが既製品。テーラーと呼ばれる技術職人さんも少なくなった。
以前はご主人が紳士服で、時子さんは婦人服を担当。成人式や旅行といった晴れの節目に注文でよく仕立てたものだという。
「背広を一着仕立てると、それこそ20年はもつのにね」と笑うが、既製品を疎ましいとは思わない。むしろ「流行に合わせられるし、さっと直してすぐに着られていい」と、あっけらかんと言う。
今はご主人亡き後、一人で店を開け、内職と直しの仕事をささやかにこなす。時代は変わっても、ミシン一筋の暮らしは変わらない。そんな職人さんの仕事が、今日もこの町には生きている。
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