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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。

その三十七(2003年7月1日)




      
 酒の王様といえば、その造りの難しさからして「やっぱ日本酒!」と、個人的には言いたいところですが、
 最近、焼酎ブームということもあってか、日本酒以外のお酒も気になるところ。今月は、蔵元がつくるリキュールの
 話題をご紹介します。


 若者の日本酒離れや季節労働力の減少など、このところ厳しい状況が続いている清酒業界。
本来の造りにこだわった伝統的な地酒を踏襲する一方で、清酒とはひと味違う「現代にマッチした新しくておいしいお酒」を模索する動きも、最近にわかに高まりつつあるよう。
 開発商品の多くは若者や女性がターゲット。炭酸ガス入りの清酒や地元の特産品を生かした焼酎やリキュール、非アルコール系の甘酒など、ユニークな試みが目をひく。

 御前酒でも、昨年から新たな取り組みがスタートし、現在、リキュールの開発・醸造を展開中。先日、その第一弾として地元特産の「さるなし」のリキュール開発が完成し、今月7月末からいよいよ販売される運びとなった。

 そもそもこの試みは、近隣の自治体、新庄村からの依頼がきっかけ。
新庄村の深山では、古くからさるなしが自生しており、村ではこれを加工して「地元の特産品にできないか」という話しが持ち上がったそうだ。
ジャムやワイン、それにリキュールと各メーカーに企画が持ち込まれ、その中のリキュール部門を御前酒が担当。地元の連帯を生かした取り組みというわけだ。

 「さるなし」はキウイの原種にあたる果実で、マンゴーにも似たまろやかな甘みをもつ。
「日本列島最高の珍果」ともいわれ、そのあまりのおいしさに、サルが我を忘れて己を無きものにして食べるということからこの名前がつけられそうだ。
 しかしながら、収穫しても保存が難しいため、生食として市場に出回ることはあまりない。どちらかというと加工品の方が一般的。一部、収穫量の多い山形県が「幻のくだもの」として、都会などへふるさと宅急便で出荷しているが、生食で味わえるため、これがたいそう人気を呼んでいる。

 さて、リキュールの製造は、蒸留法、浸漬法、エッセンス法と3種類あるが、中でも果実やハーブ、種子などを酒類にそのまま漬け込む浸漬法は、一般的にも身近。家庭でも簡単に作れるため、気負いなく飲める。
暑気払いや風邪予防に飲む、お馴染みの梅酒やカリン酒、その他古くから民間に伝わる薬用酒もこのタイプ。リキュールは本来、体をいたわってくれるやさしい飲み物なのである。

 さるなしについては、これが驚くほど滋養効果が高いすぐれもの。ビタミンはレモンの10倍、しょ糖、果糖、ペントーズ、アラビノガラクタン、ピロカテキン属のタンニン、ペクチンなどのほかタンパク質分解酵素が大量に含まれ、疲労回復や強壮、整腸、補血などの効能がある。そのうえ美肌効果もあるといううれしいおまけつきだ。

 今回発売されるさるなしのお酒は2種類ある。果実酒タイプの「さるなしのお酒13度」は甘味があるため飲みやすく、アルコールに弱い方は、サイダーなどで割ってカクテルにしても楽しい。体力増進をかねて、毎晩一杯のナイトキャップとしてもおすすめだ。
 
もう一方「さるなしのお酒25度」は焼酎タイプで、さるなしを漬け込んだあと蒸留したもの。甘みを抑え、香りが高く焼酎感覚で楽しめるのが特徴。まったく味わいが異なるので、ぜひお試しあれ。


▲さるなしの実

 御前酒蔵元では昨年9月から「固定概念にとらわれない、新しい発想での酒づくり」をテーマに、女性社員3人をメンバーとしたリキュール委員会が発足。「自分達が飲みたいもの、ほしいものをつくる気持ちで」アイデアを出し合い、現在ミーティングを重ねているところだという。さるなしのリキュール商品化を足がかりに、社内でも気運が高まり今後はリキュールのさらなる研究に拍車がかかりそう。

「リキュールは素材の幅が広いので、やりようによってはおもしろいです」と話すのは委員会メンバーの女性蔵人。
「製造免許が下りてから、いろいろ構想を練ってみてはいるんですけど、実際に試すのはこれから。ミーティングの段階で、まだまだ試行錯誤の連続ですね(笑)」。

 味や香り、風味にこだわったおいしいお酒…。オリジナルのものづくりは、それなりに産みの苦しみがともない、順調にはいかない部分も多々あるそうだが、どんなリキュールができるのか、今から楽しみでもある。

 たくさんのリキュールが完成したあかつきには、開発秘話や苦労話なども盛り込んで、「プロジェクトX〜女性たちの開発した新たなリキュール」とでも題して、大いにご紹介したいと思っています。お楽しみに!

2003年7月1日


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