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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。
その五十九(2006年3月6日)

-普通に暮らしてる人がおもしろい。
-モデルになる大人がいっぱいおる。
-普段は近所のおっちゃん。だけどまつりの時は絶対服従
-なれなれしい。みんな仲がいい

「自分たちの町」をテーマに、地元勝山高校商業科1年4組が制作したホームページ「仕事じゃけん・・・」が、2005年岡山県スクールインターネット博で見事県教育長賞を受賞。今回その仕掛け人でもあるクラス担任・河田好美さんと、生徒の行藤亜紀さん、水島奨くんと一緒に、「勝山のまち」についてあれこれおしゃべりしてみました。




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 「仕事じゃけん・・・」では、高校生たちが町に飛び出し、さまざまな業種の商店主にインタビュー。造り酒屋に時計店、印判店、和紙屋、自転車屋…その数全部で26店舗。各店の主が答える、「仕事じゃけん…」の後に続くひとことには、それぞれの仕事に対する価値観や人柄、人生観などが透けてみえて面白い。

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河田(以下敬称略) 特別な何軒かをとりあげるんじゃなくて、フラットにみんな一緒にというところですね。勝山は普通に暮らしている人がおもしろいんです。

-ああ、わかります。この「のれんの向こうがわ」も、個人レベルな話が聞けるところがやってて楽しくて、もう58号も続いています。

河田 イチローとか松井とか、ああゆうテレビに出てくる特別な人ばかりを目標にしなくたって、勝山にいると、近所におるおっちゃんやおばちゃんや、おかあさんやおとうさん、みんな一人ひとりにストーリーがあるっていうのを肌で感じられる。 

-まさにそのふつーっぽさですよね、勝山は。地域経済が専門の河田先生からみて、勝山の町が一番他と違う点ってどこでしょう。

河田 勝山の町づくりは、学ぶところがとても多いんだけど、たぶん形式的に真似しようと思っても絶対真似できない。たとえば他の地域だと、商店街が衰退していくのを、行政がなにもやってくれんからとか言い出すでしょ。でも勝山では誰もそんなこと言わない。はじめに企画ありきじゃなくて、住んでる人が自主的に、夏は花火の柄ののれんでも掛けようかって楽しみを見つけて、それをみんなが共有するところがすごいと思う。それがまた美しいし。

-おっしゃるとおり。アポなしでいきなりおじゃましても、お茶がでてきて、まあ座ってゆっくりしていかれえなんて言ってくれる。そんな町はそうないです。

奨 それあたりまえじゃろー。

-(他ではそんなこたあないぞ)。

河田 のれんって、内と外を軽やかにつなぐ役目をしてくれてて、いちおう境界なんだけど、外からのものもしなやかに受け入れてくれる。地域と学校もそういう関係でありたいと思うんですよね。教室の中だけじゃ学べない教材が地域にある。勝山だからこういう経験が教材として成立する。ある町の方が(高校生から質問されて)自分たちが子どもたちに教えてやれることがあるのがうれしいって言って下さったんだけど、すごく懐が深いですよね。


-のれんの内側に住んでいる当の二人からみて勝山のいいところってどこだと思う?

亜紀 まつり以外じゃなかったら絶対まつりじゃけどな。行事のときとかひとつになる。 

奨 仲がええ。なれなれしいぐらい。

-エリアでいうとどのへんまで親しくわかるん?

奨 (自分の住んでいる)保存地区は全部いけるな。(隣りの新町)商店街もいける。家族構成とか、親戚は誰とかいうとこまでわかる。

河田 向こう三軒両隣でさえ、最近は関係が希薄であやういこの時代にねえ…。

-町がもうまるごとファミリーみたいな?

奨 それ(表現が)デカかろー 



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 隣りの家からテレビの音が聞こえてくるのも「ふつー」だそうだ(まるで江戸時代の長屋)。保存地区と新町商店街あわせると半径1キロぐらいにはなるだろうか。彼らは、その住民一人ひとりを知っている、そして仲がいいと断言する。鍵なんてさらさら無用の地域コミュニティ。一つの町をまるで「じぶんち」のように使いこなすのが、勝山っ子たちである。おそるべし!
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-都会では、隣りに住んでる人がどんな人かもわからずに生活してる人がたくさんいるようだけど、そういうところで一人で暮らすことになったらどうする?

亜紀 ふつーに声かけるじゃろ。

-無関心な人ばっかりだったら?

奨 みんなを巻き込む、意地でも。

河田 生活環境が周りみんな幼なじみばっかりじゃが。勝山の子には、絶対的な「孤独」とか「さびしさ」という感覚はないと思う。町のおじさんおばさんも、見たらどこの子かわかるし、いっつも声かけてもらってる。確かに人に対してなれなれしいけど、未知のものをこわがらないところも勝山っ子のよさかな。

-なるほど。じゃあ、出会い系サイトとかはナンセンス?

奨 いらんじゃろ。そんなんせんでも(人が)おるもんな。


河田 あと、まつり文化がいいなと思うのは、意外にもこの子たちは目上の人をきちんとたてることができるというか、わきまえを知ってる。(奨くんに)普段はふつうのおっちゃんでも、まつりの時は、総代っていうんかな、絶対言うこと聞くんじゃろ?

奨 うん。まつりの時は絶対服従じゃな。

河田 勉強はめんどくさくても、だんじりの飾り付けとかはめんどくさいと思わんの?

奨 思わん思わん!

亜紀 それ思うたらおしまいじゃ。

河田 普段はしょっちゅうケータイいじって、メールとかを気にしとるが。でもまつりの時は、メールがこようがなにしようが、気がつかんじゃろ。

亜紀 携帯の存在を忘れとる。意味をなさんな。

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河田さんいわく、だんじりに出た男子は翌日力を使い果たして声はがらがら、もぬけの殻と化すらしい。毎年10月19、20日のまつり日(けんかだんじり)はちょうど高校のテスト期間中にあたるらしいが、まつりよりもテスト勉強を優先する者はいない。大人社会も同様で、この日商店はのきなみ休業。まさに「まつり イズ グレート! プライオリティNO.1 」の世界。河田さんいうところの、これも勝山っ子たちの「暗黙知」である。

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-もしまつり行かずに、六本木ヒルズや表参道ヒルズ行こうやと言われたら?

亜紀・奨 絶対まつり。(即答)

-豪華ホテル宿泊付き海外旅行とだったら?

亜紀・奨 まつり。(再び即答)

河田 まつりの日が彼女の誕生日で、どこか遊びに連れてってと言われたらどうよ?

奨 ……(いちおう少し考えて)まつりに連れて行く。

亜紀 でもまつりが始まったら、絶対彼女ほったらかすよな。

一同爆笑!

河田 今どきの高校生文化って、イコール消費文化なわけですよ。関心が携帯やパソコン、ファッションとかもろもろ。でも、まつりの時は違うんよ。彼らにとってはそういうのがまったくどうでもよくなる。水島んちの次男坊がどうしたとか、行藤のおじさんがどうしたとかそんな話しを延々とやってて、そこに住んでる人間にしかわからない特有の地域文化にどっぷり浸ってしまうよね。

-わかる気がします。たぶん勝山の人はみんな、まつりがある限り、年を重ねても精神的につながってるんだと思う。まつり衣装を身にまとった旦那衆とかお年寄りが、これまたものすごくかっこいいし。

河田 モデルになる大人たちがいっぱいいる町ですよね。


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トークインタビューを終えて
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 今どきの高校生らしく、最初は言葉少なだった彼ら。仕事観を聞こうと思ってもあまり食らいついてきてくれず、でも、途中話題がまつりに移ると、ぱっと顔が明るくなって勝山っ子の本領発揮。気負わず、取り繕わずまさに自然体。ストレートでそのまんまの受け答えは、逆に気持ちがいいぐらい。

勝山をこよなく愛する河田さんのフォローがこれまた絶妙で、持ち前の豊かなボキャブラリーでトークを盛り上げてくださいました。話し好き、お酒好き、人が好き、町が好き…。きっと、普段はこれ以上にローカルでおかしい会話が、あちこちで繰り広げられているのでありましょう。外の人間からみると、今どきそこまで豊かな勝山の町はある意味「稀少」でうらやましいと思うけれど、のれんの内側に暮らす奨くんや亜紀さんから見ればそれが、「ふつー」「あたりまえ」の感覚になっていて、そのよさにまだ気づいていないのが、ある意味愉快な発見でした。



【プロフィール】
■クラス担任・河田好美さん
勝山高校商業科1年4組の生徒とともに、勝山高校ホームページ「仕事じゃけえ」のサイトを立ち上げた仕掛け人。もともと出身は津山で、勝高に着任して3年目。大学時代の専門はなんと商店街をテーマにした「地域文化」。いつまでもおしゃべりしていたい、そんな親しみやすいキャラクターで、今や勝山の町にすっかり溶け込んでます。

■行藤亜紀さん
勝山の町を「なんもねーが」(なにもない)といいつつ、シネコンもショッピングセンターもアミューズメント施設も、「勝山には必要ない」ときっぱり言い切る。おひな祭りの時、どっと押し寄せる観光客に、自宅の庭の苔を踏まれるのがちょっとユーウツ。保存地区在住。

■水島奨くん
保存地区に店を構える「散髪屋水島」の次男坊。跡を継ぐのはお兄ちゃんだけど、将来は自分も美容師をめざしているイケメン君。自分ちの商売や仕事を「あたりまえに」誇りに感じているのも、実は勝山っ子の特長。

勝山高校商業科1年4組製作HP
「仕事じゃけん・・・夢交流web」
http://www.katuyama.okayama-c.ed.jp/sigotojaken/



2006年3月6日


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