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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。
その五十八(2005年12月1日)
茜色、支子(くちなし)色、紅藤色、桜色、桧皮(ひわだ)色、柿渋色…。これらはすべて日本の伝統色の名前。色見本帳なるもので一つひとつ見ていると、日本の色の名というのは植物にちなんだものがやはり多い。あらためてニッポンの色というのは、自然の草花や樹木そのものなのだなあとつくづく思う。やわらかな語感や響きの美しもさることながら、その繊細で豊かな色彩には、思わずうっとりと引き込まれてしまう。
▲銅やアルミ、鉄など、どの媒染液に浸けるかによって、色味が変わる。頭の中で描いたイメージ通りの色を出せるかは、作家としての感性や熟練の技がやはり必要なのだ。
▲右から太田さん、加納さん、上田さん。上田久美子さんは今年の5月、東京から勝山に移り住み、今はショップのスタッフに。
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手作業から生まれる
温もりのある表情
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草木染めは、自然の恵みと人とが織りなす暮らしの中の工芸だ。天然の素材で衣服を染め上げ、身にまとうことで植物のもつ薬効をも取り入れる。そんな先人たちの知恵や技には、細やかな日本人の感性が見え隠れする。
秋も深まる11月。保存地区にある「ひのき草木染織工房」を訪ねた。染織家である加納容子さんの住まいを兼ねた工房&ギャラリーは、蔵の原型を残す築241年の古い町家。ディスプレイされた染織作品が、永い時を刻んだ土壁や土間に美しく映える。着物の帯やテーブルセンターをはじめ、山繭(野生の蚕)の生地を染めあげたやさしい風合いのマフラー、毛糸の小物、モダンなデザインをあしらった大ぶりののれん作品まで、ひとつひとつ手にとって色やデザインを眺めるだけでとても楽しい。一点一点表情の違うそんなものたちは、きっと永くつきあうほどに愛着が増す。
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地元産の桧皮や、
野山の草花を染料に
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染料となるのは勝山産の桧や杉、季節の草花や木の実など。勝山は森林が町の総面積の85%を占め、古くから木材の集散地として栄えてきた。そのため地元産の桧皮は一年中こと欠くことがない。普段かかっている工房ののれんも勝山のシンボルともいえる桧で染め上げたものだ。
春から夏にかけてはよもぎやくさぎ、椿の花、夏は葛、秋はざくろや栗などが代表選手。普段からなにげなく近くの野山に自生している植物たちを観察し、「旬」と思える時期を見計らって採取にも出かけていくという。
「たとえばよもぎなんかはね、肌寒い早春の時期に摘んだものでしか、あの独特のやわらかな黄緑色は出せないの。植物も人間の一生と同じで、若い頃は新陳代謝も盛ん。生命が一番輝いている時をとらえて、その植物が持っている一番きれいな色をひき出してあげるのが人間の役目だと思うんですよ」と加納さん。
草木染めというと、渋く沈んだ色味を想像しがちだが、加納さんが染めるものには、はっとするような冴えた明るさがある。命あるものを生かすというのはこういうことなのか、とあらためて気づかされる。実際、化学染料のなかった江戸時代の小袖には本当にきれいであでやかな色づかいのものが多いのだそうだ。それだけ、昔の職人たちは、色に対する感性や自然を観察する目が肥えていたということなのだろう。
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ものづくりを
中心に据えた生き方
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作業は、加納さんの15年来のパートナーである太田桂子さんといつも二人三脚。根気のいる防染(染めないところを糸や竹でしばって模様を出す絞り法と、ろうけつ法がある)作業も、女同士のあ・うんの呼吸で進んでいく。
昨年の春からは、もう一人ここへ若い女性スタッフも加わった。勘藤潤子さんは、将来独立をめざしものづくりに励む染織家の卵だ。地元の大学のデザイン学部を卒業後、京都の西陣で2年間機織修行。その後アルバイトで生計を立てていた時、勝山ののれんに触発され、誘われるように工房を訪ねてきた。ものづくりへの思いを形にすべく、現在は月に何度か加納さんの工房に泊まり込みながら制作に励んでいる。今では勘藤さんが手がける多色染めののれんや小物もなかなかの評判だという。
加納さんにとって、ここに集まってくる人たちは、同じ志を持つものづくりの仲間たちだ。もともと加納さん自身、弟子はとらない主義。勘藤さんに対しても、彼女自身の方向性やオリジナリティを大事にし、一作り手として場所を提供している。互いに創作意欲を刺激しあえるそんな関係は、端から見てもとても自由で、楽しそうにみえる。
「本当にやりたいことを見つけ、それに打ち込んでいくことはとても幸せなこと。好きなものづくりをしながらこんな風に生活している人間がいることを、若い人たちにもっと身近に感じてほしい」と加納さんは言う。
▲「水彩は筆で色を重ねていけばいいけれど、草木染めは(多色染めの場合)、どの色を先に染めるか経験や技術がともなわないと、思った通りの色にならないことが多い」と勘藤さん。実際に作った商品が売れていくのをみて、少しづつ自分の企画に手応えを感じているところ
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ここにしかないもので
人とつながっていく
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ものづくりの醍醐味をあえて言うなら、「ここにしかないものを自らの手で作りあげることができるところ」と加納さんは言う。人の心に響くものを作るためには、むろん経験や技を磨いていくことが必要だが、自分自身のアイデンティティや居場所を確立することで人との出会いも広がる。ものを通じて感性が呼応しあうのだろう、実際にこの場所で、さまざまなジャンルのアーティストとのコラボレーションも生まれているようだ。
「もの」の向こうがわにある「人」との出会い。この町を訪れた人は、きっとその不思議な魅力を肌で感じることだろう。さまざまな色の個性をもった「もの」と「人」との関係が、まるで縦糸と横糸のように織り合いながら、暮らしを、そして町を楽しく染めあげている。
2005年12月1日
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