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吟醸粕から生まれる
香り豊かな魚の粕漬
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「銀鱈の粕漬け」は、御前酒が営む「レストラン西蔵」で、創業当時から供されている定番メニューのひとつである。塩をした銀ダラの切り身を、酒粕、味噌、砂糖で味付けした漬床に漬け、焦げないように香ばしく焼きあげる。シンプルながら酒粕の上品な香りがなんとも食欲をそそる一品だ。蔵元ならではの上等な酒粕をたっぷりと使って漬け込んだ秘伝の「味」には、左党ならずともわざわざ足を運んでくるファンも多い。
「うちは混ぜもの一切なしの本当にいい酒粕、それも吟醸粕と留粕の2種類をブレンドして漬けるので、よそに負けんもんができるんだと思います」と話すのは、厨房を仕切る田淵料理長。これまで「門外不出」でその味を守ってきた。
高級酒をしぼった翌日にでる吟醸粕は「生粕」とよばれるだけあって、市販ではほとんど手に入らない極上品だ。吟醸酒のあの華やかな香りがなんとも贅沢な、酒粕の中のいわば花形である。
一方、留粕は、純米酒などをしぼった後にでる通常の板粕を、もう一度タンクに戻し半年間再発酵させたもの。熟成によって色が濃い茶色になり、より深いコクがでる。一般には奈良漬けの材料としてもよく知られている。このふたつの酒粕をうまく混ぜ合わすことで、味と香りの二重奏が生まれるというわけだ。
もともと酒粕には、亜鉛やカルシウム、ビタミンB1や葉酸などのミネラルやビタミンが驚くほど豊富に含まれている。冬場の滋養食としてだけでなく、これからの季節、夏バテ防止にも一役買ってくれそうだ。
その秘密、実は日本酒のもととなる酵母にある。酵母は麹菌の力を借りて増殖する際、蒸し米の栄養分をどんどん吸収し、体内でエネルギーを作る酵素の活動によって糖をアルコールに変える。その発酵の過程で、ブドウ糖から変化したアミノ酸やビタミンB群などがぎゅっと凝縮されていくのである。その栄養分はなんと、もとの米の成分の数倍にも価するとか。そしてこの酵母は、日本酒をしぼった後の酒粕にほとんど移行する。昔から伝わる粕漬けには、そんな酵母の栄養をおいしく摂取するための日本人の食の知恵がつまっているのだ。
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