西蔵
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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。
その五十六(2005年6月1日)

 おいしいお酒に出会うと、いつもと違う気の利いた一品がほしくなる。シンプルでいて、かつちょっと贅沢な「味」が楽しめるものなら言うことなし。日本酒と相性がよく、さらにごはんのおかずとしても食欲を満足させてくれる、そんなおいしい味を訪ね、その舞台裏をのぞいてみた。

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吟醸粕から生まれる
香り豊かな魚の粕漬
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「銀鱈の粕漬け」は、御前酒が営む「レストラン西蔵」で、創業当時から供されている定番メニューのひとつである。塩をした銀ダラの切り身を、酒粕、味噌、砂糖で味付けした漬床に漬け、焦げないように香ばしく焼きあげる。シンプルながら酒粕の上品な香りがなんとも食欲をそそる一品だ。蔵元ならではの上等な酒粕をたっぷりと使って漬け込んだ秘伝の「味」には、左党ならずともわざわざ足を運んでくるファンも多い。
「うちは混ぜもの一切なしの本当にいい酒粕、それも吟醸粕と留粕の2種類をブレンドして漬けるので、よそに負けんもんができるんだと思います」と話すのは、厨房を仕切る田淵料理長。これまで「門外不出」でその味を守ってきた。

 高級酒をしぼった翌日にでる吟醸粕は「生粕」とよばれるだけあって、市販ではほとんど手に入らない極上品だ。吟醸酒のあの華やかな香りがなんとも贅沢な、酒粕の中のいわば花形である。
 一方、留粕は、純米酒などをしぼった後にでる通常の板粕を、もう一度タンクに戻し半年間再発酵させたもの。熟成によって色が濃い茶色になり、より深いコクがでる。一般には奈良漬けの材料としてもよく知られている。このふたつの酒粕をうまく混ぜ合わすことで、味と香りの二重奏が生まれるというわけだ。

 もともと酒粕には、亜鉛やカルシウム、ビタミンB1や葉酸などのミネラルやビタミンが驚くほど豊富に含まれている。冬場の滋養食としてだけでなく、これからの季節、夏バテ防止にも一役買ってくれそうだ。
 その秘密、実は日本酒のもととなる酵母にある。酵母は麹菌の力を借りて増殖する際、蒸し米の栄養分をどんどん吸収し、体内でエネルギーを作る酵素の活動によって糖をアルコールに変える。その発酵の過程で、ブドウ糖から変化したアミノ酸やビタミンB群などがぎゅっと凝縮されていくのである。その栄養分はなんと、もとの米の成分の数倍にも価するとか。そしてこの酵母は、日本酒をしぼった後の酒粕にほとんど移行する。昔から伝わる粕漬けには、そんな酵母の栄養をおいしく摂取するための日本人の食の知恵がつまっているのだ。



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アブラが乗って香ばしい
和食に最適の銀ダラ
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 さて、漬けこむ材料の銀鱈だが、その名前からして、冬の鍋物の定番、タラの一種かと思いきや、実はそうではない。インターネットで調べてみるとなんと、カサゴ目に属する魚であった。オコゼやアイナメ、コチなどを同じ仲間にもつ深海魚の一種だそうだ。体長1メートルほどで黒褐色。写真でみるとやや尖った頭の形をしている。
日本に入ってくる銀ダラは現在そのほとんどが外国産で、ノルウェーやアラスカ、カナダなどが主な輸入先。水揚げされた後、加工冷凍され頭を落とした状態で入荷してくるそうだ。
 
 銀ダラと並んで、西京漬けなどによく使われるサワラも特に瀬戸内では美味しい魚だが、銀ダラはそれよりもよくアブラが乗っているので、味噌漬けや粕漬けにすると大変うまい。もちろん煮たり、照焼きにしても美味だという。
 
 西蔵では、100切れほどの銀だらを月3〜4回漬け込む。さっそく厨房におじゃまし、実際に作業を拝見しながら手順を説明してもらった。まずは頭を落とした状態の銀ダラを3枚におろし、分量が均一になるよう切り身にする。その後、ベタ塩を施し30分ほど置いて軽く水洗い。ふきんで一つひとつていねいに水気をとったあと、漬床に漬け込んでいく。この状態で冷蔵庫に入れ、3〜4日すれば食べ頃となる。



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プロの味を家庭でも
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 西蔵の漬床は、普通の粕漬けよりも酒粕をふんだんに使っているのがなんといっても特徴だ。たくさん仕込むので、作業中もそばから酒粕のいい香りがたちのぼってくる。失敬して指ですくってなめてみるとこれがまた実にうまい。そのままパンやごはんにのっけて食べたいくらいであった。

 粕漬けや味噌漬けは、糖分が含まれているため、家庭で焼くときはなるべく焦げないようホイルをかぶせたり、酒粕を完全に落とすのがコツと、田淵料理長。これまでは店でしか食べられなかったこの粕漬け、最近になって、うれしいことに御前酒のホームページから注文で手に入るようにもなった。
 ちなみに、漬床は再利用できるので、魚を焼いて食べた後は野菜や豚肉など好きな材料を漬け込んでみるのもいい。この機会にぜひ、家庭でプロの味を楽しんでみてはいかがだろう。



西蔵の銀鱈の粕漬のインターネット販売を始めました。
詳しくは御前酒蔵元ネットショッピングのページをご覧下さい。


2005年6月1日


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