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地酒のおいしさをおまんじゅうに
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一年中で最も寒い1月、2月は、いわずもがな酒の仕込みの最盛期。蔵の煙突からは米を蒸す蒸気がたちのぼり、昼夜問わずの作業に追われる蔵人たちで、蔵の中は活気を呈す。蔵の前を通りすぎるだけで、もろみのいい香りが鼻をかすめる。
江戸時代から営々と続くそんな酒蔵を過ぎると、「前田製菓」と看板をあげた小さなお菓子屋さんが目にとまる。店先には濃紺の大振りなのれん。「酒まんじゅう」と小さく端に染め抜いてある。
訪れる客のほとんどは、この店の名物「酒まんじゅう」がお目当てだ。毎朝その日の分だけを手作りして店に並べるので、いつもできたての美味しさが味わえる。セロファンに残る小さな水滴が「蒸したて」のしるし。かすかに残る温かさと、好きなだけバラ売りしてくれる昔ながらの商いにどこかほっとするものを感じ、ここまで買いに来た甲斐をほんの少し噛みしめる。
ショーケースに並んだ1コ75円のそのおまんじゅうをさっそくほおばる。さっき蔵の前で鼻先をかすめたそのまんまの上質な酒の香りがふわっと口の中に広がる。
「うちのおまんじゅうは、それこそお酒をどっくどっくと飲んでくれますからね…」。
そう話すのは、普段店を切り盛りしている3代目のお嫁さん、好江さんだ。
水を一切つかわず、酒かすとほんの少しの山芋、そして御前酒「美作」を惜しげもなくたっぷりと飲ませて(!)ふかした生地は、実に贅沢で上品で風味。最近は、香りだけを抽出した「酒のもと」なる製菓材料を使って作るところも多いらしいが、それではこの味はでないらしい。日本酒のコクそのものが生きてこその酒まんじゅうだ。中のこしあんも、一番上等な餡にこだわって、グラニュー糖で甘みをつけている。あと口がとてもいいので、子どもも大人も、ついつい3つ4つと手が伸びてしまうのだ。
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