御前酒蔵元

「御前酒」 前杜氏 原田 t巧 プロフィール

  • 1931年
    岡山県南部、寄島杜氏の里ともいえる
    沙美海岸の程近くの漁師の家に生まれる。
  • 1948年
    旧制金光中学校卒業。
    蔵人であった父について、17歳から四国の蔵で働く。
  • 1956年
    25歳のとき、地元で名杜氏といわれた真田杜氏について
    御前酒の蔵人となる。
  • 1962年
    御前酒で酒を造り6年目、31歳の仕込みの最中に真田杜氏が
    病に倒れ、杜氏に大抜擢される。

受賞歴

  • ・備中自醸清酒品評会で40年連続優等賞
  • ・岡山県清酒品評会 優等賞受賞多数
  • ・広島国税局清酒鑑評会 優等賞多数
  • ・全国新酒鑑評会 金賞受賞7回
  • ・1983年 備中自醸造清酒品評会 最優秀賞授賞
  • ・1985年 備中自醸造清酒品評会 最優秀賞授賞
  • ・1985年 備中自醸清酒品評会 大名人賞受賞
  • ・2004年 dancyu2004.3月号銘酒ガイド今年の本命「純米酒」20選 第1位
  • ・2004年 11月3日内閣黄綬褒章を受章
  • ・2005年 岡山県清酒品評会 工業技術センター所長賞受賞
  • ・2007年 International Wine Challenge SAKE部門 シルバーメダル受賞
  • ・2007年4月永眠。享年77歳。
     46年の長きに渡り御前酒の蔵で酒を造り続けました。

商品開発も非常に熱心で、岡山理科大学の石井元教授とホテイアオイを使用した焼酎の開発、地元新庄産のチェリーを使用したチェリーワインの開発、低アルコール発泡清酒の開発、紅麹を使用した清酒の開発など、数多くの新商品を作り出しました。また、技能検定清酒製造作業の審査員、備中杜氏組合会長など公職も歴任しました。

原田杜氏の人柄「能ある鷹は爪を隠す」:杜氏 辻 麻衣子

私が蔵に入ってからは、原田杜氏につきっきりで酒造りのことを習いました。
仕込みの時期は家族の誰よりも一緒に過ごす時間が長いな、と言って二人でよく笑っていました。
その中で、「能ある鷹は爪を隠す」とはこの人のことだなと、ずっと思っていました。

原田杜氏は、いわゆる「頑固一徹の職人」とは違い非常に気さくな方で、造りのこともひとつひとつ丁寧に隠すことなく教えてくれました。杜氏の仕事というのは、体力的にも厳しい仕事ですが、精神的なプレッシャーも多く非常に大変な仕事です。しかし、原田杜氏はそんな大変さを全く感じさせない人でした。怒ることは全くなく、休憩時間も蔵人と一緒にテレビを見たり、原田杜氏が冗談を言ったりして笑いの絶えない会集場(休憩場)でした。

しかし、夜になり蔵人が帰った後で、夜の作業の合間にひとり土間を掃除したり、冷え込みそうな夜はタンクに保温マットを巻いてやったり、帳面をつけたり、酒造の本を読んで研究したりと、良い酒ができるための努力を惜しまない姿は、頭が下がる思いでした。

また、いい酒を造るため、道具や仕込方法の改良を常に怠らない人でした。毎年同じ方法では進歩がないと、毎年新しいことにいくつも挑戦していました。亡くなる1年前は入院生活が長かったのですが、その病床でも次の年の仕込みのアイディアをいくつもノートに書きとめていました。その酒造りに対する情熱には、敬服の外はありません。

御前酒は今年で創業204年ですが、そのうちの46年、ほぼ半世紀以上の間、酒を造り続けた原田杜氏。まさに今の御前酒があるのは原田杜氏のおかげです。その原田杜氏の技を引き継ぎながら、常に新しいことに挑戦する原田杜氏の意志も受け継いで、いい酒を造っていきたいと思っています。(杜氏 辻麻衣子)