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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題、蔵人の内緒話、蔵からのメッセージなどエッセイ風に皆さまにお届けしていきます。 |
「熱い思いが伝承されるとき」
午後5時20分……檜舞台商店街を通り抜け、町並み保存地区へ向かう。今日は勝山あげての一大イベント、「けんかだんじり」の祭り日だ。昼間は子どもを乗せてお宮を中心にだんじりを引き、夜は二日間に渡って夜中まで「けんか」が行われる。だんじりをぶつけ合い、文字通り「けんか」をさせる祭りだ。本来は、出会い頭にぶつけ合ったり、横道から不意打ちをついたり、町のいたるところで「けんか」が行われる命がけの祭だったらしい。現在ではだんじりは九台に増え、決められた場所で真正面からぶつかり合う形になったらしい……。
それにしても、いつになく町が閑散として見える。町の数カ所にだんじりの詰め所があり、はっぴを着た男達がたむろしているのを除いては、人もあまりいない。祭といえば出店が立ち並び、商店もこぞって祭向け商品を店先に並べ、音楽や看板が街中を賑わす……そんな祭風景に慣れ親しんできた私には、不思議でならない光景だった。
かろうじて数軒の出店を見かけたが、中心舞台となる町並み保存地区に入ると、いつも町を彩っているのれんさえも見あたらない。お店というお店は閉まっていて「本日は勝手ながら休業させて頂きます」と張り紙がしてある。にもかかわらず、町全体がそわそわした空気に包まれていて、嵐の前の静けさのような静寂が私を期待感でいっぱいにした。
夕暮れも迫り、チャントコチャントコという太鼓と鐘の音に、オイサーオイサーと威勢の良いかけ声があちこちから聞こえ始めた。元若連、上若連、城若連……、町内ごとに独自のはっぴに身を包んた男達が脇目もふらずだんじりを引き練り歩く。
町役場前広場……。数台のだんじりが集まり、独特の太鼓と鐘をけん制し合うようにひときわ大きくたたく。乗りの良い拍子に、まさに血が騒ぐ……!数時間前の静けさとうって変わって、どこから集まってきたのか、通りは老若男女、カメラを持った観光客で埋め尽くされた。通りの両方向から1台づつだんじりがやってきて、一定距離をあけてにらみあう。チャントコチャントコ、オイサーオイサー!音とかけ声は次第に高まり、絶妙のタイミングで思い切りぶつけ合う。1トンを越えるだんじりを2〜30人の男達が一丸になってぶつかる瞬間の「ガツン!」と太く響く音といったら爽快だ。ぶつかればいさぎよく後ろへ下がり、何度もこれを繰り返す。中心に立つ行司のような役割もいるが、勝ち負けを審判するわけではない。「ここはなー、地元(町内)じゃけん負けれんのんじゃ!」観戦しているおじさんが力んで言う。そのくせ終わっても、勝ったも負けたも言わない。心なしか満足げに見えただけ。勝敗は、勢い、タイミング、凄み……、町の人には分かるらしい。しかも、それぞれの中で。町中が興奮に沸き、観客もいっしょになってオイサーオイサーのかけ声で溢れる。これが延々と町の数カ所で行われ、祭は佳境へと達していくのだ。
この盛り上がりはいったい何なのだろうと思う。だんじりには男盛りの連中から茶髪の若者、中にはかなりの高齢者の姿も見られた。祭は毎年10月19日に行われ、曜日もまちまちだ。しかし、田舎を離れ、都会や海外にいても帰って来るという。学校も休みだ。また、練習もリハーサルもない。あれだけ独特で早いリズムの太鼓や鐘も教えたりしない。勝山の子ならみんなたたけるというのだ。年々盛り上がりを見せ、若い女の子達は隣町からもやってきては歓声をあげる。大の大人が祭となれば仕事も忘れ、数週間前から盛り上がる。そして当日はねじりはちまきに地下足袋はいて、若い者には負けられないとさっそうとだんじりに乗り込み、勝敗もつけないのに正月を過ぎるまで祭の話題に花が咲く……。こんな大人達の姿を目を輝かせながら見つめる子ども達も、数十年後、祭の話に花を咲かせているにちがいない。
2000年 12月 4日
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