二万三千石三浦藩の城下町であった勝山は宿場町として栄え、蔵のある通りは旧出雲街道、脇を流れる旭川は多くの高瀬舟が往来していたそうです。
昭和60年には県初となる「町並み保存地区」に指定されました。元々観光地ではありましたが、30年前の観光客数は年間5万人程度で、所謂何もない寂れた田舎町といった様相でした。
平成に入った辺りから勝山が変わり始めます。先代の辻均一郎や同世代の方々が町づくりに力を入れ始め、徐々に町を訪れる方が増えてきます。彼らの町づくりのコンセプトは「観光客に媚びるのではなく、自分達が町を愛し楽しむこと」。当蔵では平成元年に貯蔵庫だった蔵をリノベーションし、酒と食の文化の発信地として酒蔵レストラン「西蔵」をオープン致しました。町全体では様々なプロジェクトが実行されましたが、最も成功した事例を二つ紹介します。一つ目は暖簾のかかる町並みプロジェクトです。古くから商売をされている家が軒を連ね、白壁・土蔵・格子窓に映える草木染の暖簾をかけはじめ、現在では100を超える家々に様々なデザインの暖簾がかかっています。それぞれの商売に合わせたモチーフ(床屋なら「くし」、履物屋なら「下駄」、当蔵は「角樽」などなど)が面白く、町を歩く方の目を楽しませています。二つ目は「勝山お雛まつり」です。各家に伝わるお雛人形を皆さんにご覧頂こうと軒先に展示したところ、大変人気を博し、現在では3月上旬の5日間で3万人を超えるお客様で賑わう大イベントに育ちました。そんな活動が認められ、読売新聞社による遊歩百選、平成21年都市景観大賞「美しい町並み大賞」など評価を頂いております。
観光客数も現在では20万人にまで増加致しました。ここ数年では県外から移住される方が増えています。古民家を再生したカフェ等町づくりに尽力してきた次世代が町を盛り上げつつあります。今、最も力を入れているプロジェクトは「発酵」をテーマにビール、チーズ、ワイン、酒、味噌など地元の7企業が集まりチームを結成。その名も「まにわ発酵’s」!2012年11月の結成以来徐々に活動の幅を広げています。発酵といえどもその世界は奥深く、お互いの技術交流という点でも刺激を受けています。日本酒の分野でも大正の鶴と御前酒の共同醸造を2022年に行いました。新書大賞2014で大賞受賞の藻谷浩介氏の著書「里山資本主義」で紹介頂くなど、先代達が築き上げた「町づくり」がここに来て大きく注目され始めました。「蔵元は常にその土地の文化の担い手であり、情報発信地である」ことをしっかりと引き継ぎ、我々の時代なりの「町づくり」を表現して行きたいと思う今日この頃です。