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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていきます。

その六十八(2008年6月1日)


骨太だけど新しい。 次代の日本酒、造ります。

今期から杜氏となった辻麻衣子さんを中心に再スタートを切った御前酒蔵人集団。名工、原田巧杜氏の伝統の技を受け継ぎながら、若い感性と情熱を賭けた、新たな酒造りが始まりました。取材・文/三村佳代子

 毎年春、その年の酒をすべてしぼり終える皆造(注1)祝いを境に、半年間の仕込みも終わりを告げる。不眠不休で酒造りに打ち込んできた蔵人たちも、ほっとひと息、肩の荷が軽くなる。
 緊張感と活気ではりつめていた蔵の中は静まり返り、道具や機械類、からっぽになったタンクは、洗い清められその役を閉じる。そして、来期の酒造りが始まるまでの半年間、また静かに時を待つのである。

 原田杜氏の亡き後、今期から県内初の女性杜氏として、麻衣ちゃんこと辻麻衣子さんが就任し、蔵は一新、若返りを果たした。率いる蔵人は全員が30歳代。御前酒伝統の技をていねいに受け継ぎながらも、それに固執することなく、これまでにない酒造りの挑戦が新たなテーマだ。

 今期仕込んだ酒は全部で19銘柄。酒量でいうと1500石。9人という少人数で臨んだ杜氏一年目の酒造りを、それこそ「怒濤のような半年間だった」と振り返る。けれど、そこには疲労感などみじんもない。いつもと変わらず淡々と、むしろ大仕事をやり遂げた後の達成感や自信のようなものが、その横顔から伝わってくる。

▲杜氏の辻麻衣子さん。県下初の女性杜氏の
誕生ということで、マスコミからの取材も多い。


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 蔵人の思いが詰まった

 
御前酒新ラインナップ
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 そんな麻衣子さんに、今年の「自信作」を聞かせてもらった。

 グリーンのボトルに入った雄町米純米酒「9(ナイン)」。おやっ?これまでの御前酒にはないルックス。一見ワインかと見紛うスタイリッシュかつ茶目っ気のあるラベルは、七代目の総一郎さんがデザインしたそうだ。

中身は、天然の乳酸菌を沸かせる「もと仕込み(菩提もと)」という昔ながらの技を使った骨太な造り。しっかりと奥深く、それでいてスッと後が切れる。まさに麻衣子さんの目指す酒質をそなえた一本だ。ちなみに、数字の9は、力を合わせた9人の蔵人の心意気を表す。「10 」の一歩手前という意味もあり、プラス1の可能性を秘めた進化形の酒といえそう。

 もう一本は、お馴染み「美作の極」。岡山県工業技術センター所長賞を受賞したというだけあって、その美質はお墨付きである。

「山田錦ならではのきれいですっきりとした酒。でもこれは、造り手の味というより、先代がこれまで大事に守り育ててきた蔵の味といってもいいと思います。環境のなせる技というものなんでしょうね」。

 麻衣子さん自身の原田杜氏への思い、御前酒への愛情が詰まった、まぎれもない、蔵の代表銘柄ともいえる地酒だ。


▲スタイリッシュだけど軟弱ではない味
▲地酒の中の地酒。美作の極

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 蔵人との和を大切にした

 ていねいで良質な酒造り

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 蔵人が若い同世代ということもあって、現場の雰囲気も以前とは変わった。

 
もともと酒造りは、総括責任者である杜氏を筆頭に、持ち場、いわゆる役職が決められ組織的に行われる。例えば頭(かしら)は、杜氏の補佐役で、その日の段取りや作業の割り振りなどを指示する。
その下に、麹を造る麹屋、酒母をあつかうもとや、酒をしぼる槽(ふね)の責任者である船頭、米を蒸す釜屋と続く。

ベテラン杜氏になるほど、その序列もきっちりと確立され、上下の関係も厳しかったそうだ。一蔵人が杜氏に意見するなんてことも昔はあり得なかったという。

 だが、今期からは蔵人と杜氏が同じ土俵で意見を出し合う「製造部会議」を設け、互いのコミュニケーションを深めた。意外にもこれは異例のことらしい。

「酒好きが多いので、飲み手としての意見も大いに参考になるんです。みんなが同じ目線でひとつの酒を造るというのはとても大事なことだと思うし、同世代ならではの、オープンで風通しのいい職場(?)環境にしたかったので」と麻衣子さん。

 仕込みが始まると、現場は24時間態勢になり、夜勤のローテーションが組まれる。蔵人と過ごす時間の方が、家族といるよりも長くなるわけだから、チームワークはなにより大切だ。

「やっぱりひとつでも手を抜くと、そのまま味に出ちゃいます。そのためにも造り手同士の和というか、気持ちの連携が大事。酒造りはどれだけ手をかけてやれるかが勝負で、おやっつあんは生前、どんなにくたびれていても小さなことを絶対におろそかにしなかった。それだけは胸に刻んでおこうと思ってます」。


▲みんな和気あいあい。
「男所帯は気をつかわなくていいです…(麻衣子さん)」


 巷では、若者の日本酒離れが叫ばれて久しいが、フルーティでライトな酒を造って風潮に迎合しようとは思わない。軽快だけど、しっかりとした旨味のある酒が好きと言い切る麻衣子さんは、やはり男前なのだ。派手なところはないけれど、気がつくと知らず知らず何杯でも飲める、そんな安心感のある酒を造っていきたいと話す。

タフな肉体と繊細な技量、そして研ぎ澄まされた五感が生み出す本物の酒造り。情熱をもった若き造り手の活躍は、日本酒ファンにとってもうれしい限り。彼らはきっと伝統文化としてのその素晴らしい価値を多くの人に伝えてくれる。そう考えると、日本酒の未来はなんだかとても明るいぞ、と思えてくるのである。


注1)皆造(かいぞう)…最後に仕込んだ桶が熟成し、もろみをすべて絞り終えること。文字通り皆(みな)造って「仕込みが終わった!」時のこと。

    
▲現場は100%肉体労働。最年少の加納隆吾さんは、季節
労働で今期から仕込みに参加。職人仕事が肌に合うらしく、大
工や左官の経験もある。精米を担当する難波孝宏さんは土方
出身。肉体労働には馴れているはずだが、30kgの米俵を担いで
何往復もするのはさすがに重労働。
「酒造りの方がむしろきついですよ」と笑う。

▲「利き酒名人」でもある、頭(かしら)の岩崎昌広さん。酒造りに関わって今年で4年目。麻衣子さんのよき相談相手だ。

2008年5月27日



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