節分を過ぎたばかりのまだ寒い冬の最中、旧家の奥座敷では、ひと足早くお雛まつりに向けたしつらいの準備が始まります。
文化元年から続く老舗の蔵元・辻本店。本宅の客間である「如意山房」は、かつて与謝野鉄幹・晶子夫妻や俳人・河東碧梧桐(かわひがし・へきごとう)など数々の文人・墨客を迎えたところ。昔ガラスの向こうには、伊達藩の江戸屋敷を模した枯山水の庭が広がり、その格式を今に伝えています。
「年中行事は、昔から必ず家族全員が揃って行うのが習わし。
桃の節句はとりわけ賑やかで、お雛さまを飾り、花を活け、お寿司やはまぐりのお吸い物を膳にのせて華やかにお祝いしました」。
そう話すのは、蔵元夫人の辻智子さん。古きよきハレの日の光景を今の子どもたちにも伝えたい…。そんな思いから、辻家に代々伝わる貴重なお雛さまを、人形作家・藤原了児さんの土びなとともに公開したのが十一年前。これをきっかけに翌年から、町をあげてのおまつりがスタートしたのです。
辻家が所蔵するお雛さまの多くは、二五〇年続く京都の老舗「丸平大木人形店」のもの。頭、髪付け、手足、小道具、金襴、造花などすべてに最高の職人たちの技を結集したその人形工芸品は、古くから宮中や財閥、名家の人々に愛され、丸平でお人形を誂えることは、ひとつのステータスシンボルとされてきました。今年は、長崎の呉服商に嫁いだ「本式束帯雛十五人揃」も「如意山房」にお目見えし、丸平の名作人形が賑やかに集います。
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