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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ
話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていき
ます。

その六十四(2007年6月1日)


暮らしの中の手仕事 「金継ぎ」

壊れてしまったお茶碗や、ふちが欠けてしまったぐい呑み…、
愛着のある大切な器も、うるしを使った修理で元通りに使えるように…。
勝山の町並み保存地区でみつけた「手仕事」を通して、
暮らしの文化を見つめてみました。

 金継ぎは、陶磁器の欠けや割れ、ヒビが入った部分をうるしでていねいに継いで、
その上から金粉や銀粉で化粧を施す日ならではの修理法のひとつ。

茶道や骨董に心得のある方ならよーくご存知だとは思うが、洋服や靴の修理と違って、
金継ぎ請け負いは、看板をあげてやっているところがほとんどない。
一般的にはあまり知られていない、日本の伝統的な職人技術なのである。

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 蒔絵の技術を習いながら
「金継ぎ」仕事をスタート
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 勝山の町並み保存地区にあるカフェギャラリー「野田屋」。野田佳與子さんは、店の仕事の傍ら金継ぎを始めて7年になる。もともとものづくりが好きで、料理、大工仕事、工芸と打ち込んでいくタイプ。40歳を過ぎて、「何か自分にできる仕事をみつけたい」と思っていた矢先に「うるし」と出会い、専門家に蒔絵の技術を習いながら、勧められるまま一つふたつと修理を引き受けるようになった。看板こそあげていないけれど、店の奥には専用の作業場があり、ふちの欠けたぐい呑みや、割れてしまったお茶碗など、町の人から持ち込まれるさまざまな器の修理に応じている。

でも、ご本人いわく「まだ職人ではなく、あくまで修行中の身」。金継ぎは、確かな経験と美的センスが必要とされ、なにより技術的にとても奥が深いものだそうだ。

「うるしは生きてるから扱いそのものが難しい。絵の具を溶くようにはいかんよね。乾く過程で日々刻々と変わっていくし、未知数の部分が大きいんです」。


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 地道な反復作業を経て、
愛着のある器が蘇る
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 欠損を見極め、方針を決めたら、まずはのりうるしで下地を施す。うるしが完全に乾いたら、また下地を重ね、繰り返しながら慎重に作業を進める。その後研いで生うるしを塗り、また乾かして色うるし、さらにベンガラを混ぜた絵うるしを塗って、磨きと塗りを繰り返す。その上から、金粉を粉筒を使って蒔き、金粉を定着させ、最後にていねいに粉研ぎをしたらようやく完成だ(はあ〜、なんという長い工程だろう)。

 修理が完了するまでには早くても1ヶ月、中には半年以上かかるものもある。長期にわたって丁寧な仕事を要求される上、予測の誤りが、何ヶ月も先になって表面化することもあり、「決して割のいい仕事とはいえない」と野田さん。預ける側に、器に対する愛情と、直して使うだけの覚悟がないと、せっかくの技も浮かばれないのだ。

 「ものによっては、かえって修理代の方が高くついて、普通に同じようなものを買った方がいいんじゃないかなと思うケースもあるんです。でも、その人にとっては思い出のある品で、別のものとは替えられない価値がある。持ち主の思いというのかな、そういうのはやっててすごく強く伝わってきますよ」。
 天然の接着剤でもある「うるし」で金継ぎされた器は、お湯を入れたり、口をつけたり、洗剤で洗ったりしても大丈夫。なんといっても元通りちゃんと「使える」ところがエラいのだ。まさに日本人の「用の美」から生まれた文化といえるだろう。
 
キズを隠さず、逆にあえて目立たせて「景色」として楽しむところにも、なんともいえぬ面白さがある。これも日本人ならではの美意識だろうか。茶道の世界では、金継ぎしてある器は、割れていないものと見なされ、逆に格が上がるとして、大切なお客様をもてなす際にも使われたという。
 
ちなみにヨーロッパでは、見た目なにもなかったように完全に修復するのが一般的で、骨董陶磁器に関しては、直して「使う」という発想はないらしい。


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 日本の伝統文化から学ぶ
ものを大切にする心
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 実は2年ほど前に、大事な備前焼の茶碗をうかつにも割ってしまい、野田さんに直していただいたことがあった。半年後、ちゃんと「使える」ようになって戻ってきたときは、しみじみと「よかったあ」と思ったものだ。うれしいと同時に、以前にも増して、ていねいに使おうという気持ちが強くなった。金継ぎをしてもらったことで、別の命が吹き込まれたのか、茶碗がちょっぴり進化したように見えたのも不思議だった。

「ものに対して責任をもつというか、金継ぎやる人が増えたらええと思う。器でもなんでも、一生使うつもりの気持ちでものと向き合ってほしい。使い捨ての時代はもう終わりにしたいよね。うちなんて本当に必要なものしか買わないし、逆にものを選ぶ時は、安いだけのものは買わずに、少し手間のかかったいいものを選ぶようになったね」と野田さん。

 骨董品に限らず、普段使いのものであっても、一度引き受けたものは、工夫しながら永く永くつきあってみる。それによってまた使う楽しみや愛情も増してくる。改めて、昔ながらの日本の文化には、ものを大切にする知恵や工夫が散りばめられていることに気づかされる。そんな古き良き日本の伝統を、ゆったりのんびり取り入れながら「今」を楽しむ勝山の人々。のれんの向こうがわをのぞくたびに、そんな暮らしぶりが新鮮でとても魅力的に映るのである。

●カフェギャラリー野田屋
岡山県真庭市勝山187
TEL 0867-44-3351
OPEN 10:00〜18:00 休 火曜日


2007年6月15日


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