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ここ美作の国にまつわるお酒の話や町の話題・蔵人のないしょ
話・蔵からのメッセージなど、エッセイ風に皆様にお届けしていき
ます。

その六十三(2007年3月1日)



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 家業の面白さに初めて目覚めた大学時代

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河野尚基(以下河野)今でこそ納得して家業を継いでいますけど、小学生の頃は「味噌屋」ってあだ名つけられて、最初はそれが嫌で嫌でしょうがなかったんですよ。そういうのなかったですか?

辻麻衣子(以下辻)ありました。どこへ行っても「御前酒の麻衣ちゃん」って呼ばれるので、レッテルを貼られてるみたいで嫌でしたね。高校もそれが嫌で勝山を出たくらいです。

河野 じゃあ酒造りにはあまり関心がなかった?

辻 全然です(笑)。英語に興味があったんで、あわよくば海外に出たいと思っていました。(お酒を)飲むのは好きでしたけど、大学の時に実家で蔵体験をするまでは、造りの方にはまったく関心がなかったんですよ。それも、周りから酒のことをいろいろ聞かれても答えられないので、じゃあ一回やってみるかって感じで。でもその時の蔵体験がきっかけでこの世界にはまってしまいましたね。河野さんが本格的にご実家を継ごうと思ったきっかけって何ですか?

河野 本格的に目覚めたのは大学に入ってからですね。もともと東京農大の醸造科には後継者枠というのがあって、推薦で入れるんです。一から必死に受験勉強するよりは、少し頑張ってそっちの道に進む方が楽かなあと思って。で、大学に入って、醸造食品のこととか塩のことを専門に勉強するうちに、あらためて食文化の面白さに引き込まれていったような感じです。

辻 塩というのも面白いですか?

河野 魚とかを塩蔵にすると旨味がぎゅっと凝縮されて美味しくなるんです。甘塩の鮭よりたっぷり塩が効いた鮭の方がより複雑で深い味わいというか。肉のタンパク質が分解されて、脂の甘みが引き出されるんです。ところで料理とかはよくされますか?

辻 ジャムとか保存食を作るのが大好きなんです。朝食べたら、お昼何食べようと思うし、お昼食べたら夜何食べようかとか思って、一日食べることばっかり考えてますね(笑)。

河野 僕も6時間かけてミートソース作ったり、からし漬けとか甘酒のプリンとかいろいろ作ります。最近はにんにくしょうゆにはまっていて、漬けておいた大葉をおにぎりに巻いて食べたりするとうまいですよ。

辻 おお〜。今度ぜひやってみます。

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 地元で作られる味は、地域の食文化の原点 ********************************************************************

辻 今、岡山県内には河野さんのところのような醸造所ってどのくらいあるんですか?

河野 50社くらいだと思いますね。でも創業はうちが一番古いくらいじゃないですか? あと、県北で酢を造っているのはうちだけです。

辻 そう考えると貴重ですよね。調味料にしてもお菓子にしても、ナショナルブランドが大量に流通する一方で、地産地消の動きも高まっていて、消費が二極化してる。もともと地酒もそうですけど、味噌とか醤油とか、地元ならではの味って大事だと思います。

河野 機械で大量生産されるものは別として、味噌なんて、ひと山超えたらもう味が違うって言いますよ。大学の時に岐阜の蔵元に研修に行ったんですけど、その蔵の方が汗水たらしながら「この味はこの町の味だからオレが守るんだ」って言ってて、それがすごくかっこよかった。それを聞いて、うちの味噌や醤油や酢もなくなれば、真庭の食文化がひとつ消えてしまうんだという寂しさを感じたんです。それでまた、決意を新たにしたわけですよ(笑)。
ブログ「蔵人マイコ日記」
http://gozenshu.blog63.fc2.com

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 昔ながらのやり方には
説得力がある ********************************************************************
河野 一度、うちに麹造りの体験にきてもらったことがありましたよね。

辻 そうですそうです。お酒と味噌では、麹の仕込みがどう違うのかなと思って、ちょっと見せてもらいました。はぜこみ(菌糸のはびこり方)が、味噌の麹と酒の麹では全然違うので驚きました。あと、木のもろ蓋とかすごく年季が入ってました。そういうものを大事にされてるんですね。

河野 うちは醤油も味噌も木桶で熟成させてるんですけど、明治21年創業当時の杉桶が今でも現役で活躍してます。初代の名前をとって清治郎桶って呼んでるんですけどね。

辻 やはり(いい菌を育てるには)あれがいいんですよね。

河野 そう、あれがいいんです。杉桶ってそれ自身も呼吸しているので、もろみの余分な水分を吸ってくれるんです。ひょっとしたらうちの味噌の味を作りだす一番の職人は、あの古い杉桶かもしんないですよ。

辻 うちも江戸時代からの三段仕込みを今も変わらずやり続けてますけど、昔の職人さんが経験から導き出してきたものって、道具も含めて、つくづく利にかなってるなあって思います。なんでそうするんだろうと思うようなことでも、ずーっとそうしてきたからそうなんだ、みたいな説得力がある(笑)

河野 手造りでしかも醗酵食品の世界となると、同じように造っても同じものにはならない。作り手によっても味が違うし、地域によっても味が違う。できるものはひとつでも、やり方というか道は何通りもある。酒造りなんて工程がもっともっと複雑だから、それが顕著なんじゃないですか?

辻 そうですね。その年の気候にも左右されますし、いろんな条件が重なってできるので、なにが原因なのかわからないくらいの少しの差でも微妙に性質が違ったりします。

河野 理想に近づけることはできても、正解そのものにはならないですよね。

辻 いちおう作る時点でこういう酒にしようと頭でイメージを描くんですよ。で、それに基づいて設計図を立ててその通りにやるんですけど、絶対にその通りにはならないです。それが難しいところでもあり面白いところでもありますね。たとえば、こういう風な醗酵の温度経過にしようと思っても、今年みたいに温かいとなかなかそうはならない。それをいかに理想に近づけるかが苦労なんです。かといって、設計図通りの温度経過をたどっても、予想通りの酒になるかというと、これまたそうとも限らないんです。

河野 わかりますね。機嫌がいい時、だだをこねる時、いろいろですよね。目にみえない微生物を扱う僕たちの仕事って、勘がものを言うというか、常に「おそらく」とか「たぶん」がつきまといますよね。

辻 そうですね。醗酵の様子がいつもと違うとすると、それにいつどこで気づくか、なにがどう違うのか、毎日問われてるようなもんです。でも、おやっつあんみたいな熟練杜氏になると、その「おそらく」が限りなく当るんですよね。経験からはじきだされる修正能力がすごいんで、少々のトラブルにも全然動じない。

河野 意見が対立したりすることはないですか?

辻 基本的にはないというか、もともと(杜氏には)かないません。以前、自分だったらこうするのにと思って試しにやってみたら、結果大失敗したことがあります。やっぱりおやっつあんの言う事が正しかったんだと(笑)。昔ながらのやり方を体に叩き込んでるから、むしろ新しいことをやってみろって言われたりもします。
ブログ「5代目見習いの蔵出し日記」
http://kohnojyouzou.blog81.fc2.com/

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 経験と五感がものを言う世界 ********************************************************************
河野 結局いくらデータをもってしても、経験には勝てない。僕なんか、下手に大学で勉強してる分、頭でっかちになっちゃって、現場では先代のやり方とぶつかることも多いんです。でも、父を見ててすごいと思うのは、温度計を使わなくても自分の指先だけでもろみの温度が50℃かどうかをぴたりと当てるんです。なんでわかるか聞いてみたら、もろみの中に指を入れて「のの字」がゆっくりと書けたら50℃。それより上だと熱すぎて書ける前に手があがる、って言います。

辻 奥が深い世界ですよね。私は酒造りを始めて6年目になりますけど、この先何年やってもきっと飽きることはないだろうなという気がしています。実際、タンクの中の泡とか、何時間見続けても飽きないんですよ。

河野 あ〜、わかるなあ。育ててるという感覚はなくても、こいつ生き物だなあっていうのはいつも感じさせられますよね。だから常に五感を傾けてないといけないなって思います。触感、味覚、視覚…、あと、もろみの醗酵具合を音を聞いて確かめたりもしますよね。

辻 たぶんものをつくることって、人間の本能に刻みこまれてると思うんですよ。だからきっと楽しいというか、やめられないんだと思います。

河野 いいものができた時のあの喜びは、サラリーマンになっていたら味わえていなかったかもしれない(笑)。理想通りにはいかないのが現実だけど、もし仮に満足がいくものができたとしても、さらにもっと美味しいものを作りたいと思う。求めれば求めるほど、その先があるっていうのが、やっぱり魅力なんでしょうね。
河野味噌製造工場
岡山県真庭市久世267
TEL 0867-42-0102


2007年2月27日


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